これは、知人であるKが体験した恐ろしい出来事について聞かせてもらった話です。
彼は大学を卒業したばかりで、友人たちとの最後の旅行として、夜行列車で遠くの街へと向かっていました。
旅行の日、Kと友人たちはワクワクしながら駅に集まり、予約していた夜行列車に乗り込みました。彼らが乗った車両はほぼ空で、静かで落ち着いた旅の始まりを約束しているようでした。列車が出発すると、彼らは自分たちの寝台に荷物を置き、車窓から見える夜景を楽しんでいました。
しかし、列車が山間部を通過し始めると、突然、外が濃い霧に包まれました。列車の窓から見える景色は次第にぼんやりとして、不気味な雰囲気に変わりました。そのとき、Kは車両の奥から不思議な足音が聞こえてくるのに気づきました。音は一定のリズムで近づいてきて、まるで誰かが彼らの席に向かって歩いてくるかのようでした。
友人たちにそのことを伝えると、彼らも耳を澄ませてみましたが、誰もその音を聞くことはできませんでした。Kは気のせいかと思いましたが、その音はますます明瞭になっていきました。彼が勇気を出して音の方向を見ると、そこには薄暗い光の中で、白いドレスを着た老婦人が立っていました。彼女の顔は不自然に青白く、彼をじっと見つめていました。
Kは恐怖に凍りつきながらも、何か言葉を交わそうと彼女に話しかけましたが、老婦人は一言も発せず、ただ静かに彼を見つめ続けていました。そして突如、彼女は静かに廊下を歩き始め、列車の一番後ろに向かって消えていきました。
その後、列車の乗務員にその老婦人のことを尋ねてみたものの、乗務員はそのような乗客を見ていないと答えました。さらに、列車内の監視カメラの映像を確認しても、その時間帯にKの言う老婦人の姿はどこにも映っていませんでした。
その夜、Kと友人たちはほとんど眠ることができず、列車が目的地に到着するのをただ待っていました。彼らが列車から降りたとき、Kは後ろを振り返りましたが、老婦人の姿はどこにもありませんでした。
調べてみると、数年前にその列車で老婦人が亡くなった事故があったことが分かりました。彼女はその列車に一人で乗っており、自然死したとされていますが、その死には多くの謎が残されていました。
Kはこの体験から、見えない何かが彼にメッセージを送ろうとしていたのではないかと考えるようになりました。しかし、その意味するところは今もって不明であり、彼の心に深い不安と疑問を残しています。
コメント