冷たい霧が町を覆った夜、私、Tと友人のKは、昔から噂される心霊スポットである古い病院跡を探検することにしました。この病院は数十年前に突然閉院された後、放置されており、地元では幾つかの怪奇現象が報告されている場所でした。
夜の闇に飲まれた廃病院は、見るからに不気味な雰囲気を醸し出していました。私たちは懐中電灯を手に、躊躇しながらもその暗い廊下を進みました。病院内は壁紙が剥がれ落ち、埃が厚く積もり、その沈黙が異様な重さを感じさせました。
私たちが病棟の一室に足を踏み入れた瞬間、空気が一変しました。まるで何かが私たちの存在に反応したかのように、部屋の温度が急激に下がり、息が白く霧となって見えました。Kが恐怖で声を上げたその時、部屋の隅からかすかな子守唄が聞こえてきました。
音源は見当たらず、そのメロディーは次第に大きくなり、不気味さを増していきました。突然、前方の壁に掛けられた絵画が落ち、大きな音を立てました。その音に驚いて振り返ると、今度は廊下の突き当たりに小さな影が見えました。
影は小柄な女性の形をしており、彼女はゆっくりとこちらに向かって歩いてきました。その顔は薄暗い中でも異常なほど青白く、目は空虚で、ただひたすらに私たちを見つめていました。彼女が近づくにつれ、その子守唄はさらにクリアに聞こえ、それは明らかに彼女から発されている声でした。
途端に、その女性は消えたかのように突然姿を消しましたが、彼女の存在感は更に強まり、部屋中にその子守唄が響き渡りました。私たちは恐怖で足が竦み、その場から逃れることもできずにいました。
その時、Kが私の腕を掴んで引っ張り、私たちは必死で廃病院からの脱出を試みました。建物から出た瞬間、不思議なことにすべての音がピタリと止まりました。背後からは何も追ってこない静寂だけがありました。
家に戻った後も、私たちはあの子守唄のメロディーを耳から振り払うことができませんでした。後日、その病院で過去に何があったのかを調べたところ、かつて若い女性の看護師が不可解な事故で亡くなっていたことが分かりました。彼女は子どもたちを非常に愛しており、亡くなる直前まで小さな患者たちに子守唄を歌っていたといいます。
この体験は私たちに深い心の傷を残し、その夜の出来事が私たちの人生にどのような影響を及ぼすのか、今でも不安でいっぱいです。何が真実で何が幻覚だったのか、未だに解明できていませんが、あの霧の夜に何か異世界からのメッセージがあったのかもしれません。
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